窓の外では、オレンジ色の夕日がゆっくりと沈みかけていた。
西の空が紅に染まって、校舎の影が長く伸びる。



今日も一日が終わる。
彼がどこかで頑張っているその時間、私はただここで同じ空を見上げている。


同じ空の下にいる、それだけで十分だと思いたかった。

けれど、本当は「おかえり」って笑いあう日常が、もう一度戻ってくることを、どこかで望んでいた。



…私が叶兎くんの隣に立つ選択をすれば、一緒にいられるのかな。

もしその選択をしなかったら…今みたいに距離が出来ちゃうのかな。





そんなことを思いながら、校舎から寮への帰り道を歩いていた。


夕方の風がまだ少し冷くて、頬を撫でるたびにひんやりとした空気が肌の奥まで刺さる。




…今日も忙しいのかな。

胸の奥が少しだけ寂しくて、頬の内側から空気が抜けるように、思わずため息がこぼれた。




「ため息、珍しい」



不意に背後から声がした。

ハッとして振り向くと夕焼けの光の中に、天音くんが立っている。


いつものように軽い笑みを浮かべているのにその目はどこか深く澄んでいて、心臓が一瞬だけ止まった気がする。



「ため息つくと、幸せが逃げてっちゃうよ?」



からかうような笑顔。けれど、どこか優しくて。

今の私には…それだけで、少し心が軽くなった気がした。


どう返せばいいか分からず曖昧に笑うと、天音くんは私の顔をじっと覗き込み、首を傾げた。