私はベッドのシーツをぎゅっと握りしめた。


『叶兎くんは……』

「……え?」

『危険がとか、そういうの関係なしに、叶兎くんはどう思う?』


一瞬だけ視線を私に向け、そしてゆっくりと口を開く。


「……胡桃が隣に立ってくれたら、世界一心強いよ」


優しく細められた目に見つめられ、また心臓が跳ねる。
隣に立って欲しいと言ってくれたその言葉に、思わず私も微笑んだ。

…私はまだ、吸血鬼のことも、この世界の危険も、何も分かっていない。
叶兎くんがどれだけの責任を背負っているか、その隣に立つことがどれだけ大変かも、まだ分からない。

…でも今すぐ断言できなくても、私の心は確かに答えを欲していた。
そして、その答えは…叶兎くんと共に歩きたい、という気持ちだった。

叶兎くんはゆっくりと私の手を取った。


「まだ時間はあるから、ゆっくり考えて。どっちを選んでも、俺はもう胡桃のこと離すつもりないから」


その言葉と同時に、手をぎゅっと握られた。
迷いのない瞳が真っ直ぐ私を貫く。


「どんなことがあっても、胡桃を守る。命を懸けて」


低く響くその声が胸の奥に落ちて、息を呑む。

そして、そっと私の額に手を伸ばし、髪を指先ですくように撫でた。


「…胡桃」


叶兎くんの優しい瞳が、真っ直ぐに私を射抜いていた。吸い込まれそうなほど澄んだ赤がすぐ近くにある。

そして息を呑むよりも早く、柔らかな温もりが私の唇を塞いだ。


唇が触れ合った瞬間、時間が止まったかのように感じる。
短いキスなのに、まるで永遠に続くかのように深く胸に刻まれた。

この幸せがずっと続けばいい。
心の底から、そう願った瞬間だった。