しばしの沈黙後、その静寂を破ったのは、低く響く叶兎くんの声だった。

申し訳なさそうで、でも確かな重みのある声。


「……この話、みんなにも黙っててごめん。後継者候補ってことは、秘密事項だったから……」


視線は床に落ちている。けれどその背中から滲み出る責任感が、静かに伝わってくる。


「まさか……叶兎が次期トップだったなんて……」


桐葉くんがぽつりと呟く。
声には驚きと、少しの尊敬が混ざっていた。


「何か……色々納得」


天音くんは腕を組み、遠くを見つめたまま頷く。

私だけでなく、皆も初めて知ったことらしい。


「ひとまず、おめでとう!」


春流くんが笑顔を見せると、九条くんも静かに頷いた。


「だな。叶兎がトップなら安心だ」


みんなの声に、少し胸の奥が落ち着く。
不安や驚きの余韻が少しずつ溶けていくのを感じた。


「そうだね……というか、僕たち一回席外そうか?」

「確かに。胡桃も知らなかったんだろうし、二人で話すといい」


飛鳥馬くんの提案に桐葉くんも頷き、皆んなの視線が私に集まる。

私は小さく頷いた。
みんなが気を利かせてくれたのだとわかる。

皆はそっと立ち上がり、父母に続くように静かに扉を閉めた。
扉の向こうで足音が遠ざかっていく。


残されたのは、私と叶兎くんだけ。


賑やかだった病室が急にしんと静まり返った。

時計の針の音が、やけに大きく響く。


その一つひとつの音に、心臓の鼓動が呼応するようで、胸の奥がざわついた。