「叶兎くんには、俺の後継者候補として、この街の治安向上という任務を課していた。その成績次第で判断すると」


その瞬間、病室にいる全員の空気が一斉にざわめいた。


「……後継者、って…!」
「マジかよ……」


九条くんと天音くんが目を見合わせ、低く呟く。



『叶兎くんが……お父さんの……?』



私も思わず疑問が零れる。目の前の事実をすぐには呑み込めなかった。

父は静かに頷き、叶兎くんを真っ直ぐに見据えた。



「今までの君の活躍は全て見ていた。その上で、俺の後継者に相応しい器だと判断した」

「……え」



叶兎くんの顔にはっきりとした驚きが浮かんだ。
けれど父は容赦なく、さらに問いを重ねる。



「ただ、トップに立つということは生易しいものじゃない。今の君に、本当にその覚悟はある?」



一瞬の沈黙。

叶兎くんは一度目を伏せ、深く息を吐いた。
そして顔を上げたその瞳には、真っ直ぐと強い光が宿っていた。


「覚悟は出来ています」


澄んだ声がはっきりと響く。
力強く、迷いの欠片もない。


「ではもう一つ……君は、胡桃を守り切ることができる?」


空気が張り詰める。
思わず心臓が跳ねて、私は息を呑んだ。


わ、私……!?

叶兎くんはためらわず一歩前へ踏み出す。
真っ直ぐに父を見据えるその横顔は、強くて、揺るぎなくて。


「どんなことがあっても、命を懸けて守ります」


その言葉は鋭くも温かく、胸にまっすぐ突き刺さった。

父はじっと叶兎くんを見つめる。
長い沈黙の末、ふっと口元に笑みを浮かべた。


「良い目だ。……赤羽叶兎。君を正式に“後継者”として認める」


叶兎くんの瞳が見開かれた。
そしていつものように、自信に満ちたあの笑みを浮かべるその姿は普段よりもずっと凛として見えた。


「胡桃。」


父の声が、今度は私を呼ぶ。

その目はさっきまでの鋭さとは違って優しい目で。


『……?』


小さく首を傾げる私に、父は言葉を置く。


「彼がトップになることによって、選択肢が二つある」


真剣な声色に、ごくり、と息を呑む。