父は私の無事を確認すると、今度は叶兎くんの方へ視線を移した。


「叶兎くん、胡桃のこと守ってくれてたんだよね。ありがとう」

「いや……俺は………」


……ん?なんで叶兎くんの名前を知ってるの?


『……えっ、二人って知り合いなの?』


思わず問いかけると、叶兎くんは言い淀んで、父に視線を送った。


「……知り合いというか………」


母がそっと私の肩を抱き寄せ、柔らかな声で告げる。



「あのね……私たち、胡桃に言ってないことがあるの」

『……言ってないこと?』



私の両親が何かを隠しているのは気付いていた。

ただ、見て見ぬ振りをしていただけで。

言わないってことは知られたくなかったんだろうし、無理に聞くつもりもなかったから。

その次の瞬間、父の雰囲気ががらりと変わった。


いつもの朗らかな明るさは影を潜め、場の空気を圧倒する重厚な声音が病室に響く。
声だけで、空気が一段冷えたように感じた。叶兎くんが総長の顔をする時と似た、一種のカリスマ性。



「俺は──吸血鬼で、トップとして吸血鬼界を束ねてるんだ」



一言一言が、床に重く落ちるようだった。

思わず息を呑み、言葉を失った。



『……は……!? え、え!?』



耳にした言葉の意味が理解できなくて、頭が真っ白になる。

びっくりなんて生易しいものじゃない。

いやいやいや、え?
隠し事のスケール大きすぎるでしょ……


まあ、吸血鬼なのは……私が純混血として叶兎くんと契約した時点で確定だった。
だから父が吸血鬼だと言われても、そこはまだ納得できる。

でも、「吸血鬼界のトップ」って何!?


視界の端ではみんなも驚いたように固まっていて、春流くんと桐葉くんが呟いた。


「胡桃のご両親が……」
「苗字一緒なのはたまたまだと思ってた……まさかほんとに……」