【side胡桃】




ずっとそばにいてくれたという事実が嬉しくて、胸の奥が暖かい気持ちになった。



そのとき、静かな病室の扉が、かすかに軋む音を立ててゆっくりと開いた。

視線を向けると、そこに立っていたのは…茶色い髪をきっちりとセンターで分けた背の高い男性と、落ち着いた雰囲気の黒髪ボブの女性だった。

見慣れない威圧感がその場の温度を一瞬で変え、病室にいた全員が息を呑んだ。


『え……?』


…ここにいるはずない、そう思ったけど私が見間違えるはずがない。



「胡桃〜!!怪我したって聞いて飛んできたんだけど大丈夫?!痛いとこない?」



私の元へ駆け寄って来て、張りつめていた威圧感が嘘のように消えて無邪気な声が響く。



『えっ…………えっ!?お父さん、お母さん!?』



思わず声が裏返った。

まさかこんな時に再会するなんて思ってもいなかったので、動揺が隠せない。
家族とはいえ転校して以来は一度も会ってないので、本当に久しぶりだ。



「……胡桃、久しぶり。無事で良かった」



母はそっと私の手を取り両手でやわらかく包み込む。
目を細めて微笑むその顔に、つい安心感に包まれる。

いや、待って……ほんとに、なんでここにいるの……!?


「……お父さん?」
「……ってことは……」
「マジ……?」


周りのみんなは意味深な事をぶつぶつと何か呟いていて、更に状況が分からなくなっていく。


「…………は?」



叶兎くんも、大きく目を見開き私の父の顔を凝視している。



「……今、お父さんって……?」



私と父を交互に見やり、眉を寄せる叶兎くん。

……な、なんでみんなまで困惑してるの……?



「…………いや、まさか……」


父はそんな叶兎くんの視線を受け止めながら、何も言わずに私の額に手を添えた。
熱がないか確かめるように、優しく撫でるその仕草に、子供の頃の記憶がふっと蘇る。
怪我をしたとき、熱を出したとき、いつもこうしてくれていた。