「俺が護るって言ったのに……全然ダメで…」
拳に力を込めると冷たい缶がわずかにへこんだ。
しばらくの沈黙のあと、秋斗は静かに口を開いた。
「……叶兎でもそんな顔するんだな」
「俺は…みんなが思ってるほど完璧でも強くもないよ」
そう見えるよう振る舞ってるだけで。
今はもう、取り繕う余裕はなかった。
「…別に普段から弱音吐いたっていいだろ。俺もWhite Lillyの奴らも、お前の事完璧人間だなんて思ってねぇし。もっと他人を頼れよ。」
胸の奥に、じんわりと熱が広がる。
ずっと張り詰めていた何かが、少しだけ緩んだ気がした。
「…年下の癖に、生意気」
「そんな俺を仲間にしてくれたのは、叶兎だろ」
その言葉に、脳裏にふいにあの日の光景が蘇る。
──夜の公園。
まだ幼かった頃。体を小さく震わせながらも見知らぬ学生を庇って、不良たちの前に立ちはだかっている男の子がいた。
勝てるはずもないのに、退く気配すら見せずに。
「大勢で年下いじめて遊んでんじゃねぇよ」
放っておけなくて、気づけば俺はその輪の中に足を踏み入れていた。
数分後、不良達を追払い、その子は息を切らしながら俺を見上げた。
「…ありがとう。俺九条秋斗。名前は?」
「……赤羽叶兎。」
「叶兎…お前つえーんだな!」
当時の秋斗は子供の純粋な瞳で俺を見つめてきて、思わず目を逸らした。
「…この辺り、危ないからうろつかない方が良いよ。じゃあね」
呼び止めようと後ろから呼ぶ声が聞こえていたけど、助けたのだって気まぐれだし喧嘩が強いのだってただの能力のおかげだし、面倒ごとを増やしたくなかったので振り返らなかった。
どうせ、もう会うこともないだろうと思ったから。
でも数年後、White Lillyを結成したときに秋斗が姿を現した。
俺の名前の噂を聞いて飛んできたらしい。再会したときの目は、あの日のまま真っ直ぐだった。
俺は俯いたまま、胡桃の手をもう一度ぎゅっと握りしめた。
この温もりを二度と失わないと、心の底から誓いながら。

