微かに白い天井が目に映った。
霞んでいた視界が少しずつ輪郭を取り戻し、見慣れぬ蛍光灯の光がまぶたの裏を刺す。

ここは、病院の一室。
漂う消毒液の匂いに、これまでの事がひと段落したのだと実感した。


『………ん…』


午後の光がカーテンの隙間から差し込み、暖かい空気が流れている。

撃たれた肩には多少の痛みが残るけど、傷口はだいぶ塞がっているようだった。

…春流くんのおかげかな。

むしろ、喉の奥が渇いていてそっちの方が痛んでいた。長いこと建物の中にいたから、沢山煙を吸ったせいだろう。


ふと、左手に温もりを感じて視線を移すと、
ベッドの端に突っ伏すようにして眠り込んでいる叶兎くんの姿があった。

指先は私の手をぎゅっと掴んだまま。

私はそっと体を起こし、その手を強く握り返した。



『……起きたら1番に叶兎くんがいるなんて……なんか、夢みたい……………。』



…目覚めて最初に視界に入るのが大好きな人って、
こんなに嬉しいんだなって。



『…毎朝こんなふうに目が覚めたらいいのにな……なんて──』



気づけば、思いがそのまま言葉になって零れていて、
自分で言ってから慌てて口を押さえる。

病み上がりに、何を言ってるんだ私は。



「……へぇ、毎朝?」



不意に、低く掠れた声がして、心臓がドクンと跳ねる。

眠っていたはずの叶兎くんが、私のことをじっと見上げていた。


『っ!? 起きてっ…!? ……い、いまの、忘れて!今のは寝ぼけてただけでっ…!』


慌てて言い訳する私に、
目の前の叶兎くんはにやりとしながら体を起こす。


「夢の中でも俺と会ってたの?」

『な……ち、違っ——!』


恥ずかしさを必死に誤魔化そうとしていると叶兎くんの表情がふっと柔らかく崩れて、私を自分の腕の中へ引き寄せる。

叶兎くんの胸の鼓動が直接届いて、安心感がいっぱいに広がった。