『か…叶兎くん…!?』

「…ったく、無理すんなっていつも言ってんじゃん」


低い声は怒ってるみたいなのに、震えて聞こえる。
額には汗、眉間には深い皺。
その表情に、胸がぎゅっと締めつけられる。


「頼ってよ、俺がいるんだから」


炎の音にかき消されそうな声なのに、不思議と真っ直ぐ届いた。

熱くて怖いはずなのに、その言葉だけで、別の理由で心臓が跳ねていた。

私は小さく頷き、彼の胸元に身を委ねた。



気づけば炎の渦を突き抜け、庭の広場へ飛び出した瞬間外の空気が頬を撫でた。


風が頬に当たり、じんわり火照った体にひやりと触れる。
安心が一気に胸へ流れ込んだ途端、全身から力が抜けていく。

地面に降ろされた私は草の上に横たえられた。


すぐに春流くんが駆け寄ってきて、もう一度治癒をしてくれる。


「……くそっ、無効化されて全然効かない…!…でも、俺の能力は完全に無効化されてないから、応急処置だけなら…!」


私には何も出来ないどころか、迷惑をかけてしまってもどかしかった。

隣にいる叶兎くんが私の手を握って、反対の手で頬に触れた。



「……お願いだから、もうあんな無茶しないで」


微かに声が震えている。


『叶兎くんが、無事で良かった』


無理に笑顔を作ってそう言ったけど、
この一言で、叶兎くんの表情がまた強く揺れた。


「…馬鹿。こんな時まで俺の心配なんかしてんじゃねぇよ……」


いつもは強気で突っかかってくるのに、
今は弱く苦しそうにつぶやいた。


『…だって…叶兎くんのこと、大好きだから』

「……!いつもは言わないくせに、さっきからほんと…何でこういう時だけ素直なの」



……なんでかな、今ふと言いたくなっただけ

今なら素直に言える気がしたから。



次第に視界が暗く沈み、音が遠ざかっていく。

それでも、頬に触れる彼の温もりだけは確かにあって。


その瞬間まで、必死に繋ぎとめていた意識の糸がぷつりと切れる。



「──胡桃!?おい、胡桃!!」



周りから名前を呼ぶ声が耳に届いたけど、もう返す力は残っていなかった。

私は安心の中で、静かに意識を手放した。