「僕………は……」


朔は自分の手のひらを見つめ、かすれるように小さく零した。
指先は細かく震えている。

私はそに視線に合わせてしゃがもうとしたけど、


「……おい、もう時間がないぞ!」


蓮水さんのその声に周囲を見渡せば、炎と煙が容赦なく迫ってきていた。

天井は崩れ落ちそうに軋み、火の粉が髪に散っては弾ける。目の前のことに必死で、今自分たちが置かれている状況を完全に忘れていた。


このままじゃ、全員まとめて呑まれる。もうゆっくりしている暇は無い。


でも、顔を上げた瞬間、意識が霞んだ。

頭の奥がじんじん熱を帯びる。
身体が火照って、息がうまく入らない。


……熱い。


立っているだけで足元が揺らいだ。

撃たれた傷口から、体中へ熱が広がっていく。



「この建物はもう限界だ。俺が出口まで案内する、着いてこい」



蓮水さんの言葉に叶兎くんも険しい表情で頷き、全員後ろに連なった。



……でも。


ただ一人、朔だけはその場から動こうとしなかった。



床に座り込んで顔を伏せ、唇を噛みしめたまま。

燃えさかる建物の中で、そこだけ時間が止まってしまったみたいに。



『朔!逃げよう』


「……僕には…逃げる権利なんてない」



朔は目を伏せたまま、震える声で言った。



「……今まで沢山酷いことをした……胡桃にだって、僕のせいで……」


……朔…。


理性を取り戻した朔は、後悔と罪悪感に押し潰されて、立ち上がることすらできない様子だった。



「僕は……ここで……」



朔がBLACKSKYで何をしてきたのかは知らないけど、蓮水さんが朔を放っておけなくなるほど状況は酷かったのだろう。

私だって、朔の事を肯定しているわけじゃない。

でも、だからといって、こんな償い方は許せなかった。