総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ




「僕は、くーちゃんの事を1番に守る。1番に愛す。他の物、全部捨てたっていい。」


朔の声がさらに近づく。銃を振り回しながら、容赦なく攻め立ててくる。

その姿には、想像以上の強い執念が宿っていた。


「君はそんな事出来ないよね?叶兎。」


朔は煽るように笑った。


「俺、は…」


その言葉に、思わず言葉が詰まった。


…否定、できなかった。

White Lillyも、この街も、仲間も

たしかに俺には、守るべきものが多すぎる。


俺だってそんな事ができるならそうしたいに決まってる。
でも、実際そうもいかない。

だから…余計に言葉を失ってしまった。



「くーちゃん、昔は泣き虫でさ。何かあるたび僕に縋ってきて。どんな時でも初めに僕を頼ってくれて。誕生日には毎年手紙をくれて──」


聞きたくない。

俺が知らない胡桃の幼い頃。
朔だけが知っている時間。

思い出を突きつけられると、心が無防備に揺らいだ。


朔に迷いを悟られてしまったのか、
その瞬間鋭い打撃が脇腹を押し、強烈な衝撃が身体を突き抜けた。

肺から空気が押し出され、息が漏れる。


「がはっ…!」


反応した時には遅く、勢いよく壁に叩きつけられた。

衝撃を庇おうとしたその拍子に、崩れ落ちた瓦礫の破片に触れた手のひらに鋭い痛みが走る。

熱い感覚が指先に広がり、赤い雫が滴り落ちた。



同時に、視界がぐらりと揺れる。
焼けるような熱が全身を駆け巡り、痺れるような感覚に呑み込まれていく。



「………っ、なんだ、これ…」



視界が閃光に染まり、数秒先の光景がフラッシュのように脳裏を駆け抜けた。


…動きが、見える。

朔が銃を振り下ろす角度も、踏み込む足も。


迫りくる朔の腕を掴み、力の流れに逆らわず床へと叩き伏せる。

そして、また振り抜かれる蹴りを読んで回避、逆に脇腹へ肘を叩き込む。

何度朔が向かってきてもその拳が俺に当たる事はなかった。


「っ…!?何で…!」


朔の瞳が大きく見開かれる。
驚いているのは、むしろ俺自身だった。

相手の動きが手に取るように分かる。
ほんの数秒先の未来が、鮮明に見える。

今までこんなこと一度だってなかった。
だとすれば原因はひとつしかない。

……これも、契約の力……?

視線を巡らせれば、胡桃の胸元で揺れるネックレスが淡い光を放っていた。