あまりに真っ直ぐ射抜いてくる叶兎くんの視線に耐えられなくなったのか、天音くんが押し殺していた声が一気に爆発する。
「俺はもう、お前達の敵なんだよ!仲間でもなんでもない!」
天音くんは感情のままに走り出し叶兎くんとの距離を詰め、拳を振り上げた。
でも、叶兎くんはその拳を避けようとせずに、その場でただ真っ直ぐ天音くんの瞳を見つめる。全く警戒しない叶兎くんの姿に周りは驚いたけど誰もこの間に割って入ることはしなかった。
「っ……!」
天音くんは叶兎くんの頬目掛けて拳を振り下ろそうとしたけど、すれすれの所で動きを止めた。
握り締めた手は小刻みに震え、
力を込めようとすればするほど、動けなくなっている。
「……殴れよ」
叶兎くんが挑発するように、
けれど真っ直ぐに言う。
その瞳には恐怖も警戒もなく、天音の事を見捨てていないんだと物語っていた。
「……チッ」
握りしめた拳が力なく下ろされ、苛立ち紛れに髪をかきあげる。乱暴な仕草の奥に、どうしようもない迷いが透けて見えた。
「…………俺、自分の心に、嘘は付けねぇや。お前の事…殴れない」
天音くんは俯いて、弱々しく呟いた。
取り繕うような言葉ではなく、息を吐くように自然と出た言葉。
さっきまでの威圧感はもう空気の中に溶けて消えていて。そこにあるのは、どうしようもなく追い詰められた少年の声だった。
「……俺はずっと、みんなを騙してた。…聞いてくれる?俺の過去」
誰も返せない沈黙を肯定と受け取ったのか、天音くんはゆっくりと目を閉じた。
──そして、語り始めた。

