「あのさ」

『何っ…』


いきなり頬を掴まれて、後ろに下がる勢いのまま、
背中が壁に叩きつけられて鈍い音が響いた。


「僕がどれだけ君のこと好きなのか、ちゃんと教えなきゃわかんない?」


朔の指が私の唇を撫でた。

冷たいはずなのに、ぞわりと背筋を這うような熱さが残る。

冗談でも、軽い言葉でもない。
視線の奥に宿る熱を見てしまって、逃げ場をなくされた気分だった。


どうにかしてこの場を収めたいけど、今何を言っても、朔を刺激してしまいそうで、言葉が出ない。


『朔、こんなこともう辞めようよ』

「…大人しく言うこと聞いてくれるならまだ何もするつもりなかったんだけど」


腕を振り払おうとしたけど、簡単に掴み返された。

両腕は壁に押し付けられ、体の自由を奪われる。

……力、強い。


『私…吸血鬼のみんなの事情とかはよく知らないけど、私がいたい場所はここじゃないの』


でも私の好きな人がいる場所はここじゃないから、

やっぱり自分の気持ちに嘘はつけなかった。


「またあいつかよ。」


朔の顔が歪む。

唇に苦い笑みを浮かべながら、呟いた。


「もう、力づくで僕のものにしちゃおうかな」


そう言って顔を近づけてきた朔。

横を向いて拒絶しようとすると、両腕は頭上に固定されて、もう片方の腕で顎を掴まれる。

どうしよう、このままじゃ…流される…!


その時


___コンコン



唇が触れる寸前、突如聞こえたドアのノック音に朔は動きを止めた。