「出てもいいけど、スピーカーにして」


朔の低い声に私は思わず小さく頷いた。

スマホを震える指で操作し、スピーカーに切り替えて応答ボタンを押す。


「っ胡桃、今どこにいる?!」


通話口から飛び込んできたのは叶兎くんの声。

電話越しだというのに、彼の必死な響きが心臓に直接触れたみたいで、胸の奥が少しだけ軽くなった。

安心できる状況なんて一つもないのに無意識に頬が勝手に緩んでしまう。


…けど、その一瞬の安堵を打ち消すように朔の声が割り込んだ。


「叶兎。詰めが甘かったね」

「は…?お前、朔?何で胡桃の携帯に…」


私が返事をする前に、朔が言葉を被せる。


「君にくーちゃんは渡さない」

「こっちのセリフだ。」

『叶兎くん…』

「胡桃、そこにいるのか?!」


返事をしようとしたその瞬間、
肩に鋭い痛みが走った。


『…!』


思わず携帯を取り落とし、硬い床に当たる乾いた音が響く。

地面に落ちた反動で、叶兎くんとの通話が途切れる。


『っ…』


後ろから回された腕、首筋にかすかに伝う吐息。
遅れて理解した。

…血を吸われてる。