『天音くん…っ足速すぎ…っ』

「ここまで来れば平気かな」


やっと足を止めてくれたのは、学園を出た先の路地裏。

狭い通りに停められていた黒い車の後部座席を天音くんが迷いなく開けた。



「胡桃ちゃん、乗って」


…え?

思わず足が止まった。

逃げると言っても、そこまでする?


『…どこに行くつもりなの?』

「俺たちのアジトだよ、あそこが1番安全だから」


アジト…って、
前に夜中バイクで連れて行ってもらったあの建物だよね


……でも、なんだろう。
胸の奥に、微かな違和感が残る。


『…。』


どうしようかと悩んでいたその時、ポケットの中で携帯が震えた。


『九条くん…!』


画面に表示された名前を見て、どこか少し安心する。



「……。」



…でも、電話に出ようとした瞬間、




「おっと、それはダメだよ」




天音くんが、

乱暴に私の携帯を奪った。