『…事情は知らないけどさ、喧嘩は程々にしなよ?』


消毒液の匂いが漂う中、胡桃ちゃんは使い終わった物を器用に片付けながら、まるで何気ない会話みたいにそう言った。

……やっぱり、気付かれてる。

いやまあそれはそうか。「転んだ」なんて子どもじみた言い訳が通用するわけない。


「胡桃ちゃんって誰にでもこうやって優しいの?」

『…え?』

「俺みたいなのにも優しくするんだなと思って」

『俺みたいなのって…天音くんは友達だし、友達に優しくするのは普通でしょ?」


友達、か。

その言葉に胸がざらついた。

俺はそんな綺麗なもんじゃないのに、真っ直ぐな瞳で“友達”だと言い切った。

俺が、何でこの場所にいるのかも知らないくせに。


どうしてそんなこと聞くんだろう、と首を傾げた胡桃ちゃんに、思わず手が伸びた。

細い頬に触れた瞬間、柔らかい体温が指先に伝わってくる。


『えっと…天音くん?』


何で、全く警戒しない?

…馬鹿だろ。

もっと俺を警戒しろよ。


「お前さ、秋斗に言われてなかった?“俺と2人きりになるな、警戒心を持て”って」

『天音くんあの時聞いて…』


言われた側からこれだもんな。俺に触れられても避けようとはしない。

本当に警戒心がなさすぎて、逆に怖くなる。