「こんな時間にどうしたの?」


胡桃ちゃんと鉢合わせる事は想定していなかったので、どう言い訳しようか頭を回転させる。


『それはこっちのセリフだと思うんだけど…』


それはそう。これは胡桃ちゃんが正論だ。
こんな時間に外で何やってるんだって話になる。

咄嗟に、泥で汚れた上着を脱いで背中に隠した。


『何か…布団に入ったら眠れなくて。ちょっとベランダで夜風に当たってたんだ』


“眠れなくて”…それは、BSの総長と会ったせいもあるのかな。


『それより、その傷どうしたの?』

「傷?」

『ほっぺた傷ついてる』


指摘され、思わず手で覆った。

……そうだ。服は隠せても、顔の傷は隠せてなかった。


「いやー、ちょっと転んじゃってさ」


我ながら苦しい言い訳。

胡桃ちゃんの瞳が一瞬揺れたけど、ハッとした俺の表情を見てか胡桃ちゃんは何も聞かず、何やら奥の戸棚から箱を取り出した。


『手当してあげるからそこ座って』

「え?いーよいーよ、こんなのいつものことだし」

『いいから座って』


ぐいっと腕を掴まれ、ソファに押し込まれる。
胡桃ちゃんは救急箱を取り出し、無言で傷に消毒をし始めた。

消毒液の冷たさにピリッと頬が痛む。
でも、その手は妙に温かい。


……いや、え?何で俺傷の手当てされてんの?

…こんな時間に帰ってきた傷だらけの男に、胡桃ちゃんは何も聞かないんだ。

まるで、俺が聞かれたくないのを分かってるみたい。