「はー、完全に油断してた。まだバレるわけにはいかねぇのに」


マスクを拾い、川辺の階段に腰を下ろす。

水面に映る月が、揺れる瞳の奥に映り込んでいた。


「…何が正しいのか、わかんねーよ」


目を伏せて、ぼそっと呟く。


「あの、栗栖さん」

「何?今イライラしてんだけど」


仲間、一言で言えば部下のような立ち位置にあたる男に名前を呼ばれ、
イライラしたまま俺は顔を上げた。


「…えっと、その、来てくださりありがとうございます」

「はぁ…あれぐらいお前らで何とかしろよ。あんな雑魚のために俺を呼び出すな」

「す、すいません…頑張ります」


文化祭初日の疲れで部屋で休むはずだったのに。
それを邪魔されて、イライラは頂点に達していた。


「じゃあもう帰るから」


吐き捨てるように言い残し、背を向ける。

時計はすでに24時を回っていた。

明日も文化祭で朝は早い。門限はとっくに過ぎてるから、裏口からこっそり戻るしかないだろう。


『あ、天音くんおかえり』


もうみんな寝てるかな。

なんて思いながら寮に戻ったらロビーに入った瞬間、

1番予想外な人物に声をかけられて、足が止まる。