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【天音side】



深夜、町外れの河川敷。
街灯の届かない川辺に、怒号と砂利を蹴る音が響いていた。

二つの集団が乱闘を繰り広げる中、俺はため息混じりに拳を振るっていた。


「チッ、何で俺がこんな事…」


前に出てきた奴の腹に蹴りを叩き込む。鈍い音と共に倒れる気配。

後ろから飛んできた足に脇腹を蹴られ、砂利の上に転がった。
舞い上がった砂埃を手で払う。


「オラァ!ここは俺らの縄張りなんだよ!」


こいつ、バカだなー
喧嘩売る相手ぐらい選べばいいのに


ぼそりと呟きながら、軽い回し蹴りを放つ。
骨がきしむような手応えと共に、奥にいた何人かまでまとめて吹き飛ばす。



「あーダル。雑魚しかいねーじゃん」


やがて敵集団の長と視線が合う。
俺は一歩一歩、砂利を踏みしめながら間合いを詰めた。


「お、おい、こんな強い奴いるとか聞いてねぇよ…!」


俺だってやりたくてやってる訳じゃねーんだよ。


「なぁ。お前らこそさぁ、この前ウチの縄張りで騒いでたらしーじゃん?潰されてぇの?」


わざと声を低く落とし、睨みつける。

月明かりに照らされた自分の水色の瞳が鋭く光って相手の顔が引きつった。

あぁ、早く帰りたい。さっさと消えてくんないかな。


「…は…お前、栗栖天音…!?」

「あ?……あれ、マスクっ…」

「な、何でここに…?お前、White Lillyの…」


嫌な汗が背筋を伝った。

足元に、さっきまで顔を隠していた黒いマスクが落ちている。

…まずい。完全に油断してた。

昼間はウィッグやフードで変装してるけど、夜中だしいいだろって思って……。


「おい」

「は、はい…」

「今回は特別に見逃してやる。その代わり、ここで俺と会ったことを誰にも口外するな。もし口外したら…ね?」



首根っこを掴んで吐き出した言葉に、男はガタガタ震えながら頷いた。

次の瞬間、集団は「すいませんでした!!!」と叫んで蜘蛛の子を散らすように走り去っていく。