“これ以上しつこく居座るなら、今すぐ叶兎くんをここに呼んで叩き潰してもらうけど?”という無言のプレッシャーを冷たい瞳に込めて見つめ返すと、男は急に気まずそうな顔をした。
本気で関わるとヤバいと察したのか、チッと高く舌打ちをすると、逃げるようにそそくさと人混みの中へ退散していく。
ふぅ……よかった……。
さすがに今日だけで二度もナンパに遭遇すれば、私だって学習するし、さっさと追い返そうという強さも身につく。
「あっはは!胡桃ちゃん、つよ!」
いつの間にかすぐ後ろで見守っていた流風くんが、手を叩いて爆笑した。
『流風くん、そこにいたならサクッと追い払ってくれたらよかったのに!』
「いやー途中で間に入るつもりだったんだけど、胡桃ちゃんがどう対応するのかなーって思って」
……いや、ナンパの対応に観察なんていらないから!
「あそうだ。凛、これから胡桃ちゃんと屋台で何か買って食べようと思ってるんだけど、一緒に行く?」
「……人混み…疲れた」
「んー、じゃあ俺が何か買ってくるから胡桃ちゃんここで凛と一緒に待っててくれない?」
「…うん」
『え』
凛ちゃんと、2人で?
2人で……???
私……叶兎くんの彼女だからって、凛ちゃんに「お兄ちゃんを奪った敵」として嫌われてたりしない……!? 大丈夫……!?
出会い頭に、思いっきり睨むような鋭い視線を向けられたときの事が脳裏に蘇る。
気楽に屋台へ走っていってしまった流風くんの後姿を見送りながら、私は恐る恐る凛ちゃんの隣の階段に腰を下ろした。
重苦しい沈黙が流れる。
気まずさに耐えかねて冷や汗を流していると──。
「……あの」
隣から、小さな声が聴こえてきた。


