純混血…契約…強い力…。
聞き慣れない物騒な単語ばかりが頭を通り過ぎていって、思考が追いつかない。
けれど、一つだけはっきりと分かることがある。
朔が今日、私に接触してきた本当の理由は──私の幼馴染だからではなく、その“力”を手に入れるためだったんだ。
……吸血鬼って、やっぱりみんな、私の『血』の価値しか見てないのかな……。
胸の奥に冷たい不安が広がりかけた、その時だった。
「あ、一応言っておくけど、俺は契約だの力だのには一切興味ないからね? 血が最高に美味いのは確かだけど……俺は『胡桃だから』好きで一緒にいるんだよ」
優しい声とともに、叶兎くんの強い腕の中にぎゅっと抱きしめられる。
冷たく冷え切りそうだった不安や恐怖が一気に溶かされていくみたいだった。
血の価値とか、特別な力とか、そんな難しいことはどうでもいい。
今この瞬間に、私の目を見て「好きだから一緒にいる」と言ってくれたことが、私にとってなによりも嬉しかった。
「…絶対、誰にも渡さないから」
その低い声にこめられた強い意志に、胸がじんわり熱くなった。
叶兎くんの腕の中が、どんな場所よりも安心できる。
たとえこれからどんなことが起きても……私は、きっとこの人を信じると思う。
その時──静まり返った生徒会寮のロビーに、不意に叶兎くんの携帯から甲高い着信音が鳴り響いた。
私を腕の中に抱きしめたままの叶兎くんは、出る気がないのか不機嫌そうに眉をひそめ、しばらくそのまま無視を決め込もうとしていたけど……電話は一向に鳴り止む気配がない。
電話……出なくて大丈夫なのかな……?
私と密着したまま、面倒くさそうに溜息をついた叶兎くんは、渋々といった様子でポケットからスマホを取り出した。
画面を確認して、さらに不機嫌そうな顔になる。
「天音?……何、今忙しいんだけど」
電話に出た叶兎くんの少し低くて不愛想な声とは対照的に、スマホのスピーカーからは、賑やかで楽しそうな天音くんの声が漏れ聞こえてきた。
《もう見回り交代時間すぎてるよー》
「…え、もうそんな時間?」
《やっぱ気づいてなかったでしょ。凪に怒られたくなかったら今すぐ集合》
「あー、わかった。行く」
通話を切った叶兎くんは、眉間にシワを寄せたまま短く「はぁ」と息を吐き出した。
ロビーの壁掛け時計にふと目をやると、針はもうすぐ午後一時を指そうとしている。
うそ……もうそんな時間!?
甘い雰囲気に呑まれて、すっかり時間の感覚を忘れてしまっていたけど……冷静に考えたら、叶兎くんは生徒会長なのだ。
文化祭の真っ最中に、仕事を放り出しておくわけにはいかない。
「そろそろ仕事の時間だから行かなきゃ。教室まで送るよ」


