「……悪い。ちょっとがっつき過ぎた」
口元に一筋だけ残った赤い雫を指先で拭いながら謝る声も、いつもと違ってどこか余裕がないように聞こえる。
普段から強引だけど…今日の叶兎くんは、なんだかいつも以上に強引で……そして、どこか焦っているようだった。
「こっち向いて」
促されるまま顔を向けると、額と額がコツンと優しく触れ合った。
至近距離で見つめ返してくる叶兎くん。
今日の叶兎くんは文化祭のコスプレ用にかっちりとしたメイクをしていて、いつもよりぐっと大人びて見える。
こんな至近距離でまっすぐに見つめられると恥ずかしすぎて、私はつい気まずさに負けて目を逸らしてしまった。
「ね、胡桃からキスしてよ」
『え、?!』
唐突すぎるおねだりに、私の喉から素っ頓狂な声が跳ね上がる。
「そういえば胡桃からされた事ないなって思って」
た、確かに自分からキスしたことはないけど…!
したことないからこそ、してって言われると余計に恥ずかしい。
「ん」
『え、私まだやるって言ってな…』
「…」
私が言い終わらないうちに、叶兎くんは黙ったままそっと目を閉じた。
……どうやら、私に拒否権なんて端から残されていないらしい。
イケメンのキス待ち顔の破壊力が、すごい…
整った鼻筋に、長い睫毛。
改めてこうやって超至近距離で観察してみると、まるで人間離れしたお人形みたいに綺麗な顔立ちをしている。


