『痛っ、…やめっ──!』
熱い感覚が一気に腕から広がっていく。
あまりの出来事に、脳が事態を理解することを拒絶していた。
何、どういうこと、
血を、吸われてる…?
朔……吸血鬼なの?
頭が混乱して、思考が追いつかなかった。
問いただしたい言葉はいくつも浮かぶのに、彼の力が強すぎて身体が動かない。
『っ…!!』
混乱する私の肩を、突然ぐっと強い力が後ろから引き寄せた。
同時に、私の腕に噛みついていた朔の身体が、弾かれたように後方へと乱暴に突き飛ばされる。
ガタンッ!と大きな音を立てて椅子が倒れ、牙が抜けた瞬間、腕に残った小さな傷口から一筋の赤い雫が伝い落ちた。
よろめく私の腰を抱き寄せて庇うように前へ立ったのは──叶兎くんだった。
「おい。……俺の胡桃に、気安く触ってんじゃねぇよ」
響くようなその声は低く、抑えきれない激怒を露わにしていた。
何かを叩きつけたような凄まじい衝撃音と、見たこともないほどガチギレモードの叶兎くんに、教室内にいたクラスメイトやお客さんたちも「な、何だ!?」とざわめき始める。
けれど、突き飛ばされた当人である朔は、何事もなかったかのように立ち上がると、不気味で貼り付いたような笑みを浮かべた。
油断していた私も悪いけど……まさか朔が、こんなことするなんて思わなかった……。
「へぇ、White Lillyの総長サマは随分とくーちゃんに惚れてるみたいだね」
「何、お前どっかの組織の回し者?」
「それに、くーちゃんの血って甘いんだね〜…これ、君のおかげ?」
「てめぇ…」
叶兎くんの目が、ギラリと光る。
次の瞬間、叶兎くんは踏み込んで朔の胸ぐらを掴むと、そのまま強引に引きずり上げた。


