首筋に触れた叶兎くんの指先がすーっとそのまま下りてきて、鎖骨のあたりを撫でるように滑る。
くすぐったさとゾクッとするような感覚が走り、私はパシッと叶兎くんの腕を掴んでその動きを止めた。
単にくすぐったかったからじゃない。
触り方が…その、血を吸おうとしている時と同じだったから…。
『……今吸おうとしてた?』
「…ダメ?」
ダメ?って言われても…!!
さすがにこんな人通りの激しい場所で血を吸われるなんて困るし、恥ずかしすぎて耐えられない。
これがもし、“水分補給!”みたいなノリで一瞬でパパッと吸うだけならまだしも、叶兎くんの場合、今まで一度だってそんな一瞬で終わったことなんてない。
というか、いつも吸血だけで終わらせてくれないし……っ!
なのに、一瞬だけ「いいよ」なんて言いそうになってしまった自分がいて、慌ててブンブンと頭を振った。
『今は、ダメ…!血なら後であげるから、ほら教室もどろ!!』
私は叶兎くんの腕の中から無理やり抜け出して、赤くなった顔を見られないように早足で教室へと駆け込んだ。
✳︎
教室に戻ると、案の定キッチンの方からすぐに名前を呼ばれた。
そこからはもう、息をつく暇すらない怒涛の忙しさ。
注文を取り、出来上がったドリンクや料理を運び、空いた席へお客さんを案内し……気づけば休みなくフロアを動き回っていた。
『こちらご注文の品になります!』
「ありがとう。」
笑顔で飲み物を置いたその席にいたのは、夫婦らしき二人組。
私は思わず足を止めてしまった。
「…どうかしましたか?」
『あっ…… !す、すみません! あまりにも綺麗な方だったので、つい見とれてしまって……』
銀糸のように透き通る髪を持つ女性と、細く真っ直ぐ流れる黒髪の男性。
整いすぎた容姿に、ほんの一瞬、呼吸を忘れる。
初対面のはずなのに、なぜかどこかで会ったことがあるような……そんな不思議な既視感が胸の奥をかすめる。
「ふふ、ありがとう。あなたもとっても可愛いわよ」
『あ、ありがとうございます…!』
柔らかに笑った女性の目は、奥が読めない。
ただ微笑まれているだけなのに、心の奥まで見透かされているような、不思議な感覚がした。


