「心音!もう廊下お客さん並んでるよ〜!」
「え、もう!?胡桃、私受付の方行ってくるから中の接客お願い!」
『う、うん!わかった!』
教室の入り口から飛び込んできた瑠奈ちゃんの声に、心音ちゃんが目を丸くして振り返る。
気づけば、教室の外の廊下には溢れんばかりの長蛇の列が。
まだ文化祭は始まったばかりなのに、すでに熱気と歓声が入り混じっていた。
瑠奈ちゃんに呼ばれた心音ちゃんは、急いで受付まで走って行く。
どうしてこんなにうちのクラスに人が殺到しているのか──その理由は、考えなくてもあまりに明確だった。
「きゃ〜!」
「赤羽くんと月城くんかっこいい〜!」
開店のベルが鳴ったと同時に、教室の奥のスペースは叶兎くんと春流くんを目当てにやってきた大勢の女子生徒たちでぎっしりと埋め尽くされていた。
春流くんは王子様らしい完璧で爽やかな笑顔を振りまいているけど、叶兎くんに関しては何とも言えない複雑で居心地の悪そうな表情を浮かべている。
ほんの数分前までは近寄りがたいオーラに圧倒されていたみんなも、一人、二人が思い切って駆け寄ったのを皮切りに、防波堤が崩れたみたいに一気に押し寄せてしまった。
そりゃあそうだよね……生徒会長と副会長の、本気のコスプレ。
全校生徒が見にくるのも当然だ。
それでも、普段なら「近寄るな」なんて冷たく突き放すはずの叶兎くんが、今は眉をひそめつつもじっと耐えている。
……文化祭の楽しい雰囲気を台無しにしないように、我慢してくれてるのかな。
叶兎くんがみんなに格好いいと褒められて、慕われているのはすごく誇らしいし嬉しい。
だけど……あんな風にたくさんの女の子たちに囲まれて「キャーキャー」と言われている姿を目の当たりにすると、胸の奥がチリチリと痛んで、なんとも言えない複雑な気持ちになってしまう。
「血吸われたーい!!」
なんて言ってる子を見ると、叶兎くんは絶対そんなことしないって頭ではわかっていても、『叶兎くんは私のなのに…』なんて思ってしまう。
…もしかしてこれが、“独占欲”?
「わお。叶兎と春流、大人気だねー」
接客の合間に、フロアの隅でぽつんとそんなことを考えていたら、横からひょっこりと聞き覚えのある軽い声が聞こえてきた。


