背中をポンと押されて強制的に教室の中へと足を踏み入れると、教室の奥の隅のスペースに、叶兎くんと春流くんの姿があった。
見た瞬間、思わず息をのんでしまう。
叶兎くんは深紅と黒を基調としたシックな高級スーツに、漆黒の大きなマントを羽織っていた。
その佇まいは、まるで物語から抜け出してきた本物の吸血鬼の貴公子そのもので。
……叶兎くんの場合、本当に本物の吸血鬼だからコスプレになってない気はするけど…。
一方の春流くんは叶兎くんとは対照的に、純白をベースにした王子様風の衣装を身に纏っていた。
ゴールドの刺繍が施されたジャケットが完璧に似合っていて、本当にどこかの国の王子様みたい。
なんだか二人の周囲だけ異次元レベルで輝いていて、空間の密度と空気感がまるで違って見える。
普段なら二人の周りには女子生徒の人だかりができているはずなのに、今日は珍しく周囲に誰も近づいていない。
その代わりに、少し離れた廊下や教室のあちこちから、女の子たちが頬を染めてじっと熱い視線を送っていた。
完璧すぎる二人のオーラに圧倒されて、みんな近づきたくても近寄れないのだろう。
…やっぱり、叶兎くんはかっこいいな……。
私もつい、うっとりと叶兎くんの姿に見惚れていた。
すると、視線を感じたのか、叶兎くんがふっとこちらへ顔を向けて。
──一瞬、ばっちりと目が合った。
……あ……。
キュンと胸が鳴ったのも束の間。
叶兎くんは私を見るや否や、ものすごい速さでフイッと視線を横に逸らしてしまった。
『…ね、ねえ心音ちゃん…!今、思いっきり目を逸らされたんだけど…!?やっぱり私、似合ってないのかな…?!』
あのあからさまな避けられ方は、地味にショックで胸がグサッと痛む。
悲しそうに小声で呟くと、心音ちゃんは苦笑いを浮かべながら言った。
「いやー、あれはそういうのじゃないと思うよ?」
そういうのじゃないって何…!
胸の奥がモヤモヤとした不安でいっぱいになる。
本当に恥ずかしいし、今からでも裏方のお手伝いにシフトを変えてもらおうかと真剣に悩み始めた。
一応、うちのクラスは「コスプレカフェ」なので、接客をする給仕係の他に、裏でドリンクや軽食を準備する調理担当の係がいる。
私は昨日のじゃんけんで見事に勝ち取り、裏方になれるはずだった。
それなのに、なぜか今こうして露出度の高いメイド服を着て接客に立たされている。
そう、他でもない叶兎くんのせいで…!!


