「……それより、まだ熱下がってないでしょ。部屋でゆっくり休みな」
優しい声なのに、そこには“これ以上踏み込ませない”という静かな圧があった。
……誤魔化された気がする。
そう感じた。
けれど確信はない。
ただ、その瞳の奥に、何か遠くを見るような光が宿っていた。
『……うん、そうする。ありがと』
それだけを残して、私は部屋に戻った。
閉めた扉の向こうからは再びキーボードの音がかすかに響いてくる。
……飛鳥馬くん、何をそんなに焦っていたんだろう。
その真相はわからないまま、私は自室のベットに戻り目を閉じた。
✳︎
2日ほど寝込んでいた私は、ようやく風邪もすっかり治って元気になった。
叶兎くんたちからは「熱が治ったからって無理するな」と何度も言われたけど、翌日には文化祭準備に復帰していた。
倒れてしまった原因は、きっと田舎からこの都会の学園に突然転校してきて、色々な事が怒涛の勢いで重なったせいで、身体に疲れが溜まっていたからだと思う。
そんなこんなで、約1週間に及ぶ大掛かりな文化祭準備は、少しずつ着々と進んでいった。
教室の装飾は日に日に華やかになり、クラスメイトたちは笑顔を見せながらも一生懸命作業している。
そしてついに、文化祭当日──。
『ね、ねえ心音ちゃん、ほんとにこれ着るの!?』
「うん!胡桃サイコーに可愛いよ!」
『で、でもちょっとこれ流石に恥ずかし──』
「ほーらもう文化祭始まっちゃうから!行くよ!」
文化祭1日目の朝。
更衣室で心音ちゃんから渡された衣装に着替えた私は、全身鏡の前で絶望的な思いで固まっていた。
渡されたのは、うちのクラスの出し物である「コスプレカフェ」用のメイド服。
……ただのメイド服なら、まだ良かった。
頭にはフワフワの黒い猫耳、お尻には可愛らしい猫の尻尾。
問題はそのデザインで、丈の短いミニスカートに真っ黒なニーハイソックス、そして胸元は大胆に開いていて、あろうことかお腹のへそまで丸出しになっているのだ……!!
この服…露出が多すぎる…!!
周りのクラスメイトたちを見渡してみると、これくらい露出度の高いコスプレ衣装をみんな平然とした顔で着こなしている。
なんでみんなそんなに堂々としていられるの……。
というか、そもそもなんでこんな過激な衣装が学校側に許可されてるの!
この学園の校風、自由すぎるよ……!
「今からでも裏方の調理担当に変えてもらえたりしないかな……!?」と必死に駄々をこねてみたけど、心音ちゃんにガシッと両腕を掴まれ、半強制的に更衣室から連れ出されてしまった。
これから、この目のやり場に困る恥ずかしい衣装で大勢の前に出なきゃいけないなんて……!
頭の中で「どうしよう、どうしよう……!」とパニックの警報がグルグルと鳴り響く。
「あ!ほら赤羽くんいるよ!見せてきなよ!」


