【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ



ふと、

ある言葉が頭をよぎった。



“アイツとは2人きりになるな”

“これ以上の事は言えねぇけど…アイツといる時は、警戒心を持て。分かったか?”



今朝、九条くんに言われたこの言葉。

何で今になって思い出したのか分からない。



「俺は………この場所が好きだ。これは、嘘じゃない…」


『え…?』



いつも周囲を和ませるように笑っている天音くんが、感情を削ぎ落とした無気力な声で、ぽつりと呟いた。

天音くんは時々、真意の分からない抽象的なことを言う。

でも今の言葉は…ますます意味が分からない。



──ギシ。


ベッドが小さく軋む音。


気づけば天音くんがベッドに身を乗り出し、私の顔の両脇に両手をついていた。



『……?』


ゆっくりと、確実に顔が近づいてくる。

逃げ場のない距離まで一気に詰め寄られ、息が止まりそうになる。



……ま、待って…?!



『あの…天音くん待っ──』



言葉を紡ぎ切る前に、廊下の向こうからドタドタと足音が響いてきた。

荒々しくこちらへ向かってくる足音。


その音を聞いた瞬間、天音くんは何事もなかったかのようにすっと体を引き、いつもの掴みどころのない笑顔へと一瞬で表情を戻した。



「おーおかえり、叶兎」