ふと、
ある言葉が頭をよぎった。
“アイツとは2人きりになるな”
“これ以上の事は言えねぇけど…アイツといる時は、警戒心を持て。分かったか?”
今朝、九条くんに言われたこの言葉。
何で今になって思い出したのか分からない。
「俺は………この場所が好きだ。これは、嘘じゃない…」
『え…?』
いつも周囲を和ませるように笑っている天音くんが、感情を削ぎ落とした無気力な声で、ぽつりと呟いた。
天音くんは時々、真意の分からない抽象的なことを言う。
でも今の言葉は…ますます意味が分からない。
──ギシ。
ベッドが小さく軋む音。
気づけば天音くんがベッドに身を乗り出し、私の顔の両脇に両手をついていた。
『……?』
ゆっくりと、確実に顔が近づいてくる。
逃げ場のない距離まで一気に詰め寄られ、息が止まりそうになる。
……ま、待って…?!
『あの…天音くん待っ──』
言葉を紡ぎ切る前に、廊下の向こうからドタドタと足音が響いてきた。
荒々しくこちらへ向かってくる足音。
その音を聞いた瞬間、天音くんは何事もなかったかのようにすっと体を引き、いつもの掴みどころのない笑顔へと一瞬で表情を戻した。
「おーおかえり、叶兎」


