『春流、くん…?』
低く笑む唇の端から、白い牙が覗いた。
理解が追いつくより早く、首筋にひやりとした感触。
…この人も、吸血鬼だ。
そう認識した次の瞬間、鋭い痛みが走る。
『っ……痛……!』
静かな広い部屋の中で、春流くんが私の血を吸う音が静かに響いた。
身体が硬直して動けない。
──吸血鬼と人間にも、相性というものがある。
痛みよりも快感を強く覚えることもあれば、幸福感に似た陶酔を与えられることもある。
う…なに、これ………
痛みの奥からじわじわと熱が広がっていく背筋にぞくりと走る感覚。
ついさっきまで吸血鬼の存在なんてほとんど認識していなかったのに
まさか、血を吸われるなんて。
『ちょ、ちょっとっ…春流く…』
「………やっぱり甘い。ねぇ、胡桃ちゃんって──」
囁きかけられる声が遠のいていく。
視界が滲み、意識が薄れていく中
「春流、…お前何してんの?」
どこからか聞こえてきた、誰かの声を最後に
私の意識は闇に沈んでいった。

