珠園(たまその)サーカスのピエロ、暮と申します! もう一度訊きます! 早野 桃瀬はここにいますか?」

 足元を支える団員の背中がプルプルと震え出したのを感じて、暮は焦りながら質問をした。

「お嬢様は只今ご主人様と外出中でございますー!」

「お嬢様……?」

 ここからでは(らち)が明かないと思い、暮は仕方なく壁の向こうへジャンプした。

「さすが、サーカスの団員様でございますねっ」

 降り立った眼前の女性は胸の前で手を合わせ、暮の跳躍に興奮の様子だ。

 若い美人に褒められれば鼻高々ではあるが、そんな場合ではないなと早速核心に触れた。

「ご主人様ってのは高岡社長のことですか? モモをどこへ連れていったんです? まさか試験に合格してもう移送されてるとか……!?」

「試験?」

 にこやかに微笑みを向けるメイド女性は、スパイ養成試験のことは知らない様子だ。