言葉が出なかった。それ以上に、何も言えなかった。

俺には昔から好きな人がいた。

それが、桜十葉だった。


『それは……』

『いいんだな?』


俺を鋭く見つめる眼光に逆らうことなんて出来なかった。

だけど、強く思ったんだ。


『嫌、です』


初めての反抗だった。まさか俺が反抗するなんて思ってもいなかっただろう父さんは、驚いたように瞳を大きく見開いていた。

俺はあんたのために、生きてるんじゃないんだよ。

父さんはそれから、何も言わずに部屋を出て行った。

だけどちゃんと、黒堂高校への入学手続きがされていたことにとても驚いた。

それが父さんのせめてもの優しさだとも、その時には全く気づけていなかった。

黒堂高校に入学し、俺の世界は一変した。

今まではヤクザの息子というだけで、恐ろしがられ誰も俺に近づいて来なかった。

でも、黒堂のヤツらは違ったんだ。


『うわ!すげぇ、お前。あれだろ?坂口グループのヤクザの息子!!』


みんなが、俺の事をキラキラとした目で見ていた。みんなが、俺に分け(へだ)てなく話しかけてくれた。

みんなにとっては、そんな事……と思うかもしれないが、俺にとっては奇跡だった。


『俺、山海 滉大(やまみ こうた)。よろしくな』

『あ!ずるいぞ!ちなみに俺は如月 來翔(きさらぎ らいと)だから。覚えといて!』


みんなはどこにでもいる不良達。

色んな事情を抱えたヤツらが集まる場所はとても温かくて、優しい気持ちになれた。


『俺は、坂口裕翔……』