「裕翔くんは、なんていうか、……日本中みんなが知ってる御曹司とかなの?」


ただ、純粋に聞いてきているだけかと思っていた。でもその瞳に疑いの色があったのは紛れもない事実だった。


そう聞かれた時、すぐに反応出来なかったのは、俺が桜十葉にある重大な隠し事をしているせい。

本当の事を言うなんて、今の俺には到底出来なかった。

だって……、もし話してしまったらどうなる?

桜十葉に嫌われてしまうかもしれない。

桜十葉に怖い思いをさせてしまうかもしれない。

桜十葉が、俺から離れていってしまうかもしれない。

桜十葉の事を愛しく想うほど、俺の心がどんどん苦しくなっていく。

本当は今すぐキスをしたい。

キスをして、俺から逃げられないようにしたい。

でも、桜十葉は俺が何かを隠していることを確信しているようだった。

考えなさい、と俺に時間を与えるために離れたのだと思う。

だから、しっかりと自分と向き合いたい。

桜十葉がその勇気を与えてくれたから。