「そう言えば…名前、教えて貰ってもいいですか」
警戒心の薄い女、とでも思われていそうだな。
でも今は、頭が全く働かないのだ。この綺麗な顔に魅入って、私の足が自分の家に返すことを許してくれない。
「ああ、うん。俺は坂口裕翔。君は?」
「私は、結城桜十葉と言います」
まだ会ったばかりの見ず知らずな男の人に自分の本名を名乗るのは気が引けたけれど、なぜか彼には素直に言ってしまう。
「おとは、ね。よろしくね」
私の名前を呼ぶ彼は、とても優しい顔をしていた。初めてこの人から名前を呼ばれて、心臓がドキリと不覚にも鳴ってしまう。
よろしくね、という言葉が妙に引っかかったが私は特に反応を示すことなく彼の家へ向かった。
「お、お邪魔します…」
お邪魔した先には目を疑うような風景が広がっていた。
家に入る前も堂々と建つ御屋敷にびっくりしたけれど、それに加えて内装を見たらこの人がとんでもない金持ちなんだということが分かる。
天井からぶら下がるようにして付いている巨大なシャンデリア。玄関はとても広くて、床はとてもピカピカしている。
廊下には赤いカーペットが奥まで敷かれてあって、階段なんて数え切れないほど。
「驚かせた?」
「あ、ぅ……はい」
「そうだよねー。俺ん家、豪邸なの」