桜十葉ちゃんは、気づいているのだろう。俺が、君の彼氏の正体を知っているということを。


「入学式のあの日、俺は坂口組の組長の息子、坂口裕翔を見た」


俺の言った言葉に、すぐ近くで桜十葉ちゃんがヒュッと息を呑むのが分かる。


「あの人、やっぱりおとちゃんの彼氏……?」

「……う、うん。そう、だよ…。だから、ごめん。真陽くんの告白は、ごめんなさい」


俺が抱きしめていた桜十葉ちゃんがぶるぶると震えながらそう告げた。

違う。違うんだ、桜十葉ちゃん。俺は君を、そんな風に怖がらせるつもりじゃない。きっと桜十葉ちゃんは、裕翔という彼氏の身の安全を暗じている。


「大丈夫だよ、おとちゃん。彼氏さんの正体は、絶対に言わないから。でも、一つだけ条件がある」


桜十葉ちゃんは涙目になりながら俺を見上げた。今は自分の腕の中にいる桜十葉ちゃんを、どうしようもなく虐めたいと思う気持ちに駆られたがそこはグッと留まる。


「な、何……?」

「これからも、俺の友達として普通に接してほしいです」


これだけでいいんだ。俺の最後の頼み事。


「へ、……?そんなことでいいの…?」

「そんなことって何……?俺にとってはめちゃくちゃ嬉しいことなんだけどなぁ」


俺の言葉に、桜十葉ちゃんはふっと安心したように微笑んだ。

……ガタンッ────!!!!