「俺、さ……感情がないんだ。みんなが楽しいと思うことも、悲しいと思うことも、自分にはどうだって良かった……。笑おうと思えば笑える。だけど、心の底から笑ったことは、一度もなかった」
君に、出会うまでは。
「おとちゃんに出会って、俺は変わったんだよ」
俺の言葉に、桜十葉ちゃんが目を瞠った。
だから、この恋が叶わなくてもいい。だって俺は、こんなにも心が揺り動かされる感情を、桜十葉ちゃんから貰うことが出来たから。
初恋、なんだ……。
「俺が産まれて初めて好きになった子は、桜十葉ちゃん。君だったんだよ」
こんな感情を、俺に教えてくれてありがとう。
もう、欲張りなことは言わないから、だから、今は少しだけ俺の願いを聞いてほしい……。
「っ、……真陽くん…っ!」
桜十葉ちゃんを、ぎゅっと優しく抱きしめた。すぐ間近で伝わる桜十葉ちゃんの体温が、とても愛おしい。
桜十葉ちゃんの両の腕はふらふらと宙を彷徨っていて、恐る恐る迷うように俺の背中に添えられた手。
優しい君は、きっと俺を押し返したりはしない。
そう分かった上でこんなことをしている俺は、どこまで貪欲で汚い男なのだろう……。
「真陽くん、……私を避けてた理由、聞いてもいいかな……?」