「…うん、いいよ。機嫌直ったから……ふふっ」
彼女は、いつもいつも、表情が豊かだ。ニコニコとした愛想を浮かべている俺なんかとは大違い。その表情はコロコロと変化して、見ていて凄く面白い。
そして、信じられないくらいに可愛いんだ。
「可愛い、……」
無意識に口に出してしまっていた俺の言葉を、桜十葉ちゃんの耳がぴくっと聞き取る。
やばい、キモがられたかな?
やっぱり、好きじゃない男に可愛いとか言われても嬉しくないよね……。
「やっと、あの頃の真陽くんだね。真陽くんは、もっと自分を見せてもいいと思う」
桜十葉ちゃんが、とても大人びた表情でそう言った。その透き通るように綺麗な瞳に、俺の全てを見透かされている気がして落ち着かなかった。
「おとちゃん……?」
「真陽くんは、みんなに全てを見せても大丈夫ってこと!ずっと見てて思ったんだ。もしかしたら真陽くんは、上辺だけの関係をみんなと築いているのかなって」
とても、驚いた。桜十葉ちゃんは、俺が思っていたよりももっとずっと人の心に鋭い子だったのかもしれない。
勝手に鈍感で天然な、可愛い子だと決めつけていたけれど、桜十葉ちゃんはそれだけではなかったんだ。
人の心に敏感で、感無量の優しさで、疲れた心を癒やしてくれる。その鋭さと、言葉の選び方に泣きそうになってしまう。