桜十葉ちゃんと二人きりで校舎から出てきたことをめちゃくちゃ嫉妬しているらしかった彼氏を見て、ある種の快感を覚えた。


「うん。…でも、こんなところに呼び出してどうしたの?」


あらかじめ一年生の使われていない空き教室で待っていてほしいと頼んでおいたのだ。


「おとちゃん。急に、ごめんね。まずは、……今まで避けていたこと、本当にごめん」

「えっ……!?う、ううん!そんな、謝らないで…っ」


俺が膝に付くくらいにまで頭を下げたので、桜十葉ちゃんがそう驚いたように声を上げる。

そして、俺たちの間に静かな沈黙が流れる。

俺は下げていた頭をゆっくりと上げて、恐る恐る桜十葉ちゃんの方を見た。自分が見たものが、信じられなくて目を見張った。


「おと、ちゃん……?なんで、泣いてるの」


桜十葉ちゃんは、流れ落ちる涙を拭いながら泣いていた。でも、その表情はとても穏やかで、嬉しそうだった。それに、心底ほっとする。


「だって、……ま、真陽くんにようやく話しかけてもらえたから……っ。なんで避けてるのとか、何だか怖くて聞けなくて、……でも最初に出来たお友達だったから、やっぱり話したくて、……」


ああ。俺は、なんて馬鹿だったのだろう。いつも自分の手の届くところにいた彼女を、傷つけてしまっていたなんて……。


「ごめんね。おとちゃん。本当に、ごめん……」