誰一人、裕翔くんに殺された人たちはいなかったじゃない……っ!


「でも、俺……桜十葉に酷いこといっぱいした!!数え切れないくらいした!!それなのに、なんで……っ」


パシッ!!と音が鳴るくらい、強く裕翔くんの頬を両手で包み込む。


「だーかーら!!私が裕翔くんのことを好きなの!!過去にどんなことがあったって、その人が自分を傷つけていたって関係ないって、私言ったことあるよね!?」

「桜十、葉……」


そう。私は言ったんだ。過去なんて関係ない。私は、今目の前に居る人を信じる。


「それが、愛情ってことじゃないの……?」


視界が歪んで、涙がぽたぽたと落ちていく。泣かせないでよ、裕翔くん。せっかく我慢出来ていたのに。


「桜十葉……、俺、ごめん…今まで嘘付いて…。本当に、ごめん」


掠れたようなか細い声。それでも、それは私の心に重く響いた。

私たちは、本当に馬鹿だよね。今までずっと、大きな間違いを犯してすれ違っていたんだから。


「裕翔くん、……もう、隠し事はない?」

「うん。ないよ。もう、…好きな人に嘘はつきたくない」


赤く腫れた頬に流れる涙を優しく拭ってあげる。すると裕翔くんは嬉しそうにはにかんで、私の涙も拭ってくれた。


「これで、やっと幸せになれるね。裕翔くん」


私がそう言うと、裕翔くんは驚いたような表情をして、すぐにいつも通りの優しくて穏やかな表情に戻る。


「そうだね。今、すごく、幸せだよ」

「“一緒に”幸せになるんだからね。分かった?」

「うん。分かった」


裕翔くんの真っ赤に染まって腫れた目が優しく細められる。私たちはお互いに微笑み合って、優しくて温かい、キスをした。