全ての話を聞き終えた私は、何だか夢見心地だった。でも、微かに芽生えた恐怖心。あの頃拉致された出来事を思い出して、震えだす自分がいる。
だけど、……私はもう、逃げないって決めたの。裕翔くんの隣に居たい。どうしても、そう思ってしまうんだ。
裕翔くんの手は冷え切っていて、今にも凍ってしまいそうだ。
分厚い一年冊の本の話をされていると思った。こんなにも切ない物語があるのかと、信じられなかった。でも裕翔くんが語ってくれたことは、全て私のことで、信じなくちゃいけなかった。
「裕翔、くん……。今の話は、全部本当なの?」
本当、なのだろう。あの日見た病院。静かに苦しそうに微笑む裕希さん。まだ小さい頃の、私と裕翔くんと裕希さん。
そして、やっと思い出すことが出来た───。
明梨ちゃんのこと。私は、ちゃんと思い出せた。裕翔くんのおかげだ。
『あかり〜ん!お誕生日おめでとう!』
『わぁ〜!おとちゃん、こんなにもらっちゃっていいのっ!?』
私は昔、明梨ちゃんのことを「あかりん」と呼んでいた。昔と言っても、まだ私たちが条聖学院の幼児部の頃の話だけれど…。
ズキズキと痛む頭を抑えて、裕翔くんに聞いた。
「本当、だよ。……全部、真実だ」