『んんっ……、も、無理……』

『ふふっ、……ごちそーさん』


口の中のチョコレートを桜十葉の口に移して、深くキスをする。初めてのキスは、チョコレートの甘ったるい味だった。


『な、なんで………』


桜十葉の頬が最高潮に赤く染まる。


『だって桜十葉とキスしたかったんだもん』


だもんって、小学生か俺は!

そう自分を叱咤しながら悪戯な表情を浮かべる。


『だからってなんで……』

『ほら、もういいでしょ。早く食べなきゃまた口移しするよ?』

『じ、自分で食べます!』


好きな子をいじめるのは、こんなにも興奮するものなのか?今、俺の気分はめちゃくちゃ高ぶっている。困って表情を見せる桜十葉を、自分のものにしたくなる。

赤く頬を染めた桜十葉は、俺が淹れた紅茶をごくっと勢いよく飲み込んだ。

俺はそれを見て、少しだけ目を見開いた。

それを飲み、ぼやっとした様子の桜十葉を見て悪い感情が俺の心の中を充満する。

その中には、記憶の一部を消す薬が入っているのだ────。

ただ、兄貴を忘れてほしい。そんな小さな俺の願いを勝手に押し付けて、叶えた。

だめだとわかっているのに、止めなかったのは俺だ。

全ての責任は、俺が背負うよ。

だから桜十葉。君は俺を、俺だけを見て。

そして、両腕だけでは抱えきれないほどの幸せを俺にちょうだい。

兄貴がくれた最後の愛情を、思う存分に使おう。

自分が幸せになるために、兄貴から桜十葉を奪った。

それだけのことをしたのだから、もう何も怖くないだろう。

そう思うのに、何も知らない純粋な桜十葉を見ていると、なぜか胸が酷く痛んだ。