『俺はあの坂口組の組長の…』

『裕翔!!それは言っちゃだめだ!!桜十葉がいる!!』


私の前で私を庇ってくれていた裕希さんが裕翔くんの言おうとした言葉を必死に遮った。


『クソがっ!!黙れよ兄貴』


この時まだ二十一歳だった裕翔くんは、今よりももっと総長様らしかったな……。性格も今より刺々しくて、言葉遣いが荒い。

でも、私はそんな裕翔くんじゃ嫌だと思った。いつも優しくて、丁寧な言葉を使う裕翔くんの方が、すごく裕翔くんらしいよ……。これは、自分勝手な考えだ。それでも、願ってしまうんだ。

不良みたいな裕翔くんは、本当にヤクザの息子みたいだから。本当に、あっちの世界に行ってしまいそうだから。だから、裕翔くんが優しいままでいてくれたら、私と一緒の世界に居てくれるかもしれない。


『おいおい、裕翔。何やってくれてんだよ』


突然、ハスキーで大人っぽい声が聞こえて銀髪の男の人が現れた。月明かりに照らされた髪がキラキラと光って、とっても幻想的だった。


『俺は、玖音咲羅。父と母は五年前に離婚。玖音は母側の名字。弟は消息不明。そして俺は、劉娥組の若頭、咲羅様だ』


色気漂う銀髪の男の人。淡々と自分のことを話して、他のことには全く興味のなさそうな瞳。すらりとした長身で猫背気味に歩く不気味なシルエット。

そして、上から目線の傲慢極まりない言葉遣い。