大広間に恐る恐る顔を出した、その時───。
私はいきなりの大きな声に体をビクッと震わせ、心臓が縮まるのを感じた。
「へっ……!?」
あまりの驚きに変に抜けた叫び声を聞かれて、すごく恥ずかしい。
「ごめん、桜十葉。驚かせた?」
裕翔くんが暴走族の部下の人達が作った道から私の方へ歩いて来た。
その姿は、まるで、───。どこかの悪役ヒーローのようにかっこよかった。
「かっこいい……」
さっきびっくりしてしまったばかりなのに、裕翔くんのあまりのかっこよさに思わずため息を吐いてしまう。
裕翔くんはさっきのスーツとは違う、黒い服を着ていた。いわゆる、特攻服というものだ。金色の刺繍で、『坂口裕翔 初代黒堂総長』『愛羅武勇』という文字が印されていた。
愛羅武勇は、アイラブユーと読む。I LOVE YOUはロマンティックな言葉のはずだが、『修羅の如く武勇を愛する』というような意味に読めなくもないらしい。
ちなみにこれは、一時期暴走族の四字熟語にハマっていたお父さんが私に力説していた言葉なのだが……。
私が驚いたことに申し訳なさそうにして眉を下げていた裕翔くんが、私が思わず呟いた言葉により驚きを隠せないというような表情になっている。