「でも、桜十葉はきっと、昔にすごく恐ろしいことがあったから、私のことも、他の記憶のことも忘れてしまっているかもしれない……。それでも、いいの?」

「……うん。だって、記憶をなくして思い出せないことは、すごく怖くて、辛いからね」


優しい顔をして、私の手を握った桜十葉の瞳が涙で潤んで見える。

ここで、親友は終わり。今からは、新しい友達としてイチからスタートする。そうしようって思えたのは、今、桜十葉と話すことが出来ているからだ。


「桜十葉は、今も裕希って人と付き合ってるの?」


軽い気持ちで聞いたつもりだった。


「え、……?桜十葉?」


桜十葉の瞳が、瞳孔が、限界にまで見開かれている。その反応を目にしてしまって、聞かなければ良かったと後悔するももう遅い。

桜十葉の表情はようやく落ち着いてきていたのに、私の興味本位な質問のせいで、また不安と驚きの滲むものにしてしまった。

本当に、自分が不甲斐ない。


「明梨ちゃん……、それって、どういうこと?」


私の震えていた手を握ってくれていた桜十葉の手が、ぶるぶると震えだす。とても困惑しているように見える。


「桜十葉は、裕希って人のことも覚えてないの?中学一年生の入学式の日から付き合っ……」