裕翔さんの冗談は、なんだか冗談には聞こえなくて、戸惑ってしまうのだ。
寂しそうな表情を浮かべた裕翔さんに、後ろ髪が引かれるような思いを抱きながら、私は別れの言葉を告げた。
「きょ、今日はありがとう!またね!!」
私は真っ赤になった顔をこれ以上見られたくなくて、まくしたてるようにしてお礼の言葉を言った。
そう言って勢いよく玄関の扉を開けて中へと逃げ込む。
「あ、桜十……」
まだ心臓、ドキドキしてる。
裕翔さんが何か言いかけていたけど、聞こえなかった。
***
「あら、桜十葉。おかえりなさい」
「た、ただいま」
「顔真っ赤よ?大丈夫?」
そう言うお母さんはいいのだけれどお父さん!
なんでお母さんをそんなに抱きしめてるのよ!
さっそくの両親のラブラブぶりに、私の心は一気に疲弊してしまって文句さえ言えなくなる。
言ったとしても、お父さんに「楓との時間を邪魔するな」とか言い返されてめっちゃ怖い顔で睨まれるのだ。
私はそれを経験済みだから、もう言わないけれど……。
「ちょっと、楓。今は俺のことだけ考えてよ」
「んっ……、ごめんなさい。あなた……」
二人の甘々な雰囲気に嫌な予感しかしなくて、私は足早にリビングを去る。最後にちらっと振り返って見た光景は……、