ただひたすらに逃げて、逃げて、逃げて……。その頃の俺は、遠くに行くことだけしか逃げる方法がなかった。

ここはどこなのか、そんな遠くまでは子供の足ではとても来れそうにないけれど、俺はなんだか、とてもすっきりとした気分だった。

そして、そこに俺にそっくりな兄貴がいたんだ───。


『そっかあ。それは災難だったね。でもさ、こんなところにいたら、危ないよ』


小さな女の子に、優しくそう言う男の子。年は俺と近そうだった。そして、兄貴が、俺の方へ顔を向けた、次の瞬間────、


『『っ、……!!!?』』


俺たちは、同時に目を見開いたんだ。だって、自分とそっくりすぎるほど、似ていたから。怖いほど、同じ外見をしていたから。だから、……。

どこかで桜十葉に、運命というものを、感じてしまっていたのだろう。


『は、……お前、何者?』


先程まで桜十葉に向けていた優しい笑みは、今は限界までに引きつっている。そして俺も、そんな顔になってしまっていると思う。

数秒間、名前も知らない自分とそっくりな顔をしたそっくりさんと見つめ合う。そしてお互い同時に、はっとしたような、閃いた顔をした。

全く、顔まで似ている上に反応までそっくりなんて……。これはもう、恐怖を超えてなんだか楽しくなってきてしまった。


『お前、さ……もしかして俺の弟だったりする?』