でも、そんな純粋な日々は、そう長くは続かなかった。兄の裕希が、坂口グループ、いわゆるヤクザの組長である義輝に反抗し始めたからだった。


『だからさー、…さっきから言ってんじゃん。俺はヤクザなんかとは縁切りてぇーの!!これからは普通の人として普通に暮らしていきたい』

『裕希……!!!!お前、誰に向かって口聞ぃてやがんだ?それに、お前は兄なんだぞ!!この坂口グループをいずれは担って行かなければならないのだぞ……!?』

『そんなこと、子供ん時から承知済みなんだよ……!お前らはさ、俺と裕翔を利用して、一体何がしてぇんだよ!?ぁああ!?それに、……跡継ぎなら、裕翔だっているだろ……!!!!』


俺の代わりに、兄貴が組長の後継者となってくれるかもしれない。そうどこかで期待と確信を抱いていた俺は、心が打ち砕かれたような痛みを覚えたのを、今でも覚えている。


『お前、裕希!!いい加減にしねぇか!!!!そこで裕翔だって聞いているんだぞ……!?』

『んなの関係ねぇよ。裕翔だってこうなるってこと、最初から分かってたんだから。な?』


その顔は恐ろしく不気味で、冷たくて、もうそこには、家族の愛情さえも残っていないということを、肌で感じる。そして、その問いかけにYes以外の選択肢は、恐らくない。俺はゆっくりと、恐る恐る頷いた。