ひとりぼっちの僕

一人の男性が店内に入ってきた。

彼は辺りを見渡しマスターを見ると奥のテーブルへと行った。

「有名人よ」

料理を客の元へ運び戻ってきた元先輩が僕に言った。

「マスコミに見つからないよう警戒してるのよ」

彼女は僕の側でそう言うと、厨房へと戻っていった。

僕は特に興味はなかった。

30分ほどすると女性が店内に入り彼の元へと向かった。

1時間ほどすると彼らは店を出た。

帰り際に彼は僕の方をちらっと見たが、特に何も言わなかった。

サングラスにハットを被り、僕には誰だかわからなかった。

彼女は僕の側で男性の名前を言ったが、あまり俳優のことは知らなかった。

客も少しずつ帰って行き、僕とマスターと彼女だけになった。

これから客はほとんど来ないだろうとのことで、マスターは外の扉の札を裏返し店を閉めた。

外では初雪が降っていた。


僕達は3人で朝まで飲んだ。

最近入ったアルバイトの話や僕がいなくなってからの話など。

僕はマスターと彼らとお酒を飲むのは初めてだったかもしれない。

深夜までの営業をしていると一緒に飲みに行くことなどほとんどない。

僕達はビールを飲んだ。

「ピッツァの作り方はまだ覚えている?あなたのピッツァは意外と人気だったのよ」

彼女に聞かれた。

だが僕にピッツァの作り方を教えてくれたのは彼女だ。

なんとなくと答えるとエプロンを渡され厨房へ行くよう言われた。

厨房はほとんど当時のままだった。

マスターのこだわりでピッツァ用の窯もあるのだ。

生地から作り窯で焼く、これはマスターが開店当初から続けてきた。

生地の上にトマトソース、チーズ、バジルをのせて焼いた。

僕は酔いがまわっていたせいか時間を計っていなかった。

なんとなくこれくらいでいいだろうというタイミングで取り出し三人で食べた。

「これはこれでいいわね」

彼女はそう言うと美味しそうに食べた。

生地は彼女が作ったものだし、具材はマスターが選んだもの。

僕はそれを窯で焼いただけだ。

2時を回ろうとしていた。

ドアのノックが鳴った。