黒い龍は小さな華を溺愛する。


――数日後

鳳凰でのバイトは毎回楽しかったのに、今日は沈んだ気持ちだった。

夕方になると、常連のお客さんがぽつぽつ入ってきて、篠原さんの威勢の良い声が店内に響く。

いつもと変わらない。

変わったのは私だけだった。

包丁を持つ手にわずかな震えを感じて、私は指に力を込める。

大丈夫……。

そう言い聞かせながらねぎを刻む。


「沙羅」

名前を呼ばれてビクッと肩が跳ねた。

振り向くと、常盤くんがこちらを見ていた。

目が合った瞬間、ふっと力の抜けた表情になる。


「無理してね?」

「してないよっ」

即答だった。

考えるより前に口が動いてた。

常盤くんは何も言わず、少しだけ私の手元に視線を落とす。

それから、なんでもないみたいに笑った。

「そっか」

その笑顔を見て、なぜか胸が痛くなった。

常盤くんに隠し事してるのは事実。

勘が鋭いから、どこまで隠し通せるか。