「よし!終わり!」
その日の放課後。黒板の掃除やら、日誌の記入やらの日直の仕事を終わらせた私は、教卓の上に積まれたノートの山を注視する。先程の世界史の授業終了時に集めた課題のノートだ。このノートの山を社会科教務室に届ければ、日直の仕事は終わり。
とは言うもののクラス四十人分のノートは思ったよりも重く、持ち上げてみると視界もちょっと悪かった。
「よいしょっ」
ノートの山を抱えながらやっとのことで廊下に出たが、目的地まで私の腕が耐えられるかどうか…。ちょっと鍛えないとな、腕。
ふらふらしながらも、ゆっくりと歩みを進める。
授業中にざばっと降った雨は一度上がって、それでも雨雲はずっと停滞しており、変わらず外は真っ暗だった。今にもまた雨が降りだしそうだ。
止み間のうちに帰ろうと急ぐ生徒たちの横を、私はゆったりペースで歩いていた。
うう、やっぱり結構重いなぁ、教務室ってこんなに遠かったっけ。早く着いて~。
そう願った矢先、「わっ」と何かに躓き、ノートの山が傾く。そのままバランスを崩したノートの山は、私の腕からバタバタと音を立てて落ちていった。
「あちゃあ」
どうやら足元に倒れていた箒に気が付かず、躓いてしまったらしい。
やってしまった。ノートが折れたりしていないか確認しつつ、一冊一冊拾いあげる。
埃を叩きながらノートの山に戻していると、誰かが屈みこみ拾うのを手伝ってくれた。
「あ、ありがとうござ、」
お礼を言おうと顔を上げると、
「あっ!」
呆れ顔の藤宮くんがノートを差し出してくれていた。