体育祭が行われている校庭を眺めながら、何故かそんなことを思い出した。

 俺は応援席には戻らず、涼しそうな木陰を探し歩いていた。

 この学校には何故か猫が住みついていて、校内をうろついている。猫は涼しい場所を探すのがうまいらしい。早速猫が寝そべっている木陰を見つけて、俺はその猫の隣に腰をおろした。確かに涼しい。猫は俺が近付いても身動き一つせず、そのまま横になっている。学校に住みついているだけあって、相当人に慣れているようだ。
 しばらく猫を眺めてから、グラウンド内へと視線を戻した。

 トラックではクラス対抗リレーが行われており、バトンがちょうど見慣れた生徒に渡ったところだった。

 この学校に転入して、初めて名前を覚えたのが、あいつ、三浦椿と、佐藤美音だった。
 二人は幼なじみらしく、いつも一緒にいる。まぁただ単に幼なじみだから一緒にいる、というだけじゃないことくらい、俺でもすぐに分かった。お互いに気が付かないのが不思議なくらいだ。

 バトンが渡った時点では三位くらいだったと思うが、うちのクラスがあっという間に一位におどり出ていた。
 三浦が走っているのだから、あいつも近くで応援しているのだろうと辺りを見回してみたが、彼女の姿はなかった。

 転入初日、ばったり再会した時にはびっくりした。なるべく関わりたくはなかったから、冷たくしていたのに、彼女は気にせず俺に話し掛けて来た。

 しかし彼女は俺のことを全く覚えていないようだった。

 当時の俺は眼鏡を掛けていたし、髪型も違ったし、まぁ気付かないもんか。それ以前にあいつらならあの日の出来事なんて記憶にないだろう。


 それなのにどうしてか、いつからかいつも彼女を目で追ってしまう自分がいた。今だって無意識に彼女を探してしまっていた。


 猫が隣で小さく鳴いた。猫の向いている方へと視線を向けると、グラウンドの片隅、彼女が木陰に腰をおろしている姿を見つけた。


 あんなところで何やってるんだ?


 足を擦りながら、木にもたれ掛かっている。

 てっきりリレーの応援をしているものだと思っていたが、彼女は困ったように辺りをきょろきょろと見回していた。